自分の身を守るには法律を知るべき(労基法、派遣法編)

4月 27, 2019

IT業界では日常的に多くの契約が交わされています。

雇用やお金に関わる部分を知ることは自分の身を守ることにも繋がりますので是非知って頂ければと思います。

SES=客先常駐と思っている方も少なくないと思います。
それ、間違っていますからね。

契約や法律関連は知っておいて絶対損は無いのでぜひ最後まで読んで覚えて頂けると幸いです。


適用される法律の違い

客先常駐で働く人には以下の契約体系が存在します。

派遣契約→派遣事業の資格を持っている派遣会社のみが結ぶことが可能。派遣先の人が指揮命令者となる。
(弊社はこちらの契約のみ)

準委任契約(SES)→派遣事業の無い会社でも客先常駐させる契約を結ぶことが可能。派遣先の人は指揮命令が出来ず、自社側の人間が管理を行う。


(エージェントを介しているフリーランスの人はほぼこちらの契約になります)


まずは客先常駐で働く人にフォーカスを当てると、関連する法律に「労働基準法」と「労働者派遣法」の2つがあります。

それぞれの適用範囲は以下の通りです。

・派遣契約で客先常駐→労働基準法と労働者派遣法が適用される

・会社に所属して準委任(SES)で客先常駐→労働基準法が適用され、労働者派遣法は適用されない

・フリーランスとして準委任(SES)で客先常駐→労働基準法も労働者派遣法も適用されない



こうやって見るだけでも全然違いますね。

労働基準法のキモ

労働基準法で定められる主な内容は下記のとおりです。

・労働時間の規制(1日8時間、1週間に40時間を超えて働いてはならない)
→これを超える場合は36協定を締結すると残業が許可されるが、残業時間にも規制がある

・業務時間中の休憩が必須
→労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間の休憩を付与しなければならない

・休日の付与(有給の付与)
→週に1日は必ず休日を付与しなければならない
→有給についても法に準拠した日数を付与しなければならない

・残業や休日出勤による割増賃金
→規定時間を超えた労働には割増で給与を払わなければならない。

会社員として働いているとごくごく当たり前な内容ですが、これらはフリーランスには適用されません。

労働基準法で適用範囲が「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定められているからです。

会社に所属しないフリーランスは適用範囲外となる訳です。
※派遣事業を持たない会社に所属して、準委任(SES)として客先常駐する場合は会社員という扱いなので労働基準法は適用されます。もちろん社会保険にも加入できます。

つまりフリーランスは有給もなければ休憩も必須ではなく、そもそも残業という概念が無いので長時間労働による過労死等があっても法は守ってくれないということです。


労働派遣法のキモ

労働派遣法で定められる主な内容は下記のとおりです。

・契約金に対するマージン率の公開
→会社の取り分を公開する義務があります。

・契約内容、就業条件等の通知
→契約金、利用できる設備、業務内容等を本人に通知する義務が定められています

・同じ現場への就業は上限3年ルール
→有期雇用(正社員ではなく契約社員)の場合適用されます。

・二重派遣の禁止
→派遣先で更に別の場所に派遣契約で出向されることを禁止しています。

他にも色々ありますが、代表的なものはこの辺りです。

客先常駐ということは派遣されて働くという形式になりますが、こちらも適用される人とそうでない人がいます。

労働派遣法が適用されるのは、以下の通りです。

・派遣契約を結んで客先常駐している人→適用される

・派遣事業の資格が無い会社で準委任契約により客先常駐する人→適用されない

・フリーランスで準委任契約により客先常駐する人→適用されない

つまりマージン率の公開が義務付けられているのは派遣契約の場合のみということになります。

なので、情報が公開されないのが嫌だという人は派遣事業の資格を持つ派遣会社で働くか、フリーランスで働くことが良いかと思います。

※フリーランスは募集されている契約金が自分の取り分となりますのが、
エージェント⇔常駐先で交わされる金額にはもちろんエージェントの取り分が乗っています(一般的には10%~25%程度)

契約による違い

派遣契約では指揮命令者が現場の方になります(大抵リーダーやPM、課長等になることが多いです)

準委任では指揮命令者が自社側の上司になります。

つまり、準委任で客先常駐をすると、客先の人は詳細に指示を出せないという事です。

よく、「客先に一人で放り込まれて誰も面倒を見てくれなかった!」という経験をされた方もいると思いますが、これは派遣契約の会社を選ぶことで多少なり回避することが出来ます。

派遣契約であれば勤怠管理や業務内容等、全て客先の人が指示を出すことができます。
なので、現場の方もそれを分かってるのでしっかり面倒を見てくれる可能性が高いです。(あくまで可能性の話です。結局はそこの人間次第です)

準委任による客先常駐は現場の人は指示は出せません。では自社の人が同じ現場にいなかった場合はどうなるでしょうか?
経験がそこそこあって、良しなに動ける方であれば良いですが、若手の方だったら誰もフォローしてくれる方がいない中で働くのは正直厳しいですよね。

あと、準委任による客先常駐は大手になるほどNGとしている会社が多いです。
なぜなら偽装請負の疑いをかけられる可能性があるため、コンプライアンスの厳しい会社ほど嫌がる傾向にあります。
※偽装請負とは準委任契約で客先常駐している人に現場の人が色々と指示を出すこと

なので、大手のしっかりした環境で働きたいという場合も派遣契約が出来る会社を選ぶことで就業できる可能性は上がります。


少し話題が逸れますが、よく「リモートワークでもしっかり成果を上げていれば文句を言わないで欲しい」という意見を見ますが、そもそも準委任(SES)契約は成果物のない労働時間の提供です。

140~180時間等、決められた時間を働く契約なので成果物はありません。
なので、ちゃんと働いているか疑われるという発注側の懸念は至極当たり前なんですよね。

成果で評価してほしいなら請負契約をするべきです。
この場合成果物のみの評価となるため労働時間は問われません。
ただし品質や納期が基準に満たない場合は損害賠償責任が発生します。
フリーランスで何かしらのトラブルにより納期遅延が発生しそうな場合は死ぬほど働いて巻き返すしかありません。

こういった責任を負わず準委任契約で成果物評価を求めてしまうと、「そもそも法律を理解しておらず、責任は負わないけど都合よく働きたい」という人の自己中心的な発言として捉えられてしまいますので注意が必要です。

さいごに

SESで中抜きされるマージンが公開されない!とか、よく叩く人がいますが、そもそもSES(準委任契約)はマージン率の公開義務はありません。

マージン率の公開は派遣法で定められていて、派遣契約を結んだ方を保護するための法律ですから。

もちろん悪意を持って多くの中抜きを行う企業が悪いと言えば悪いのですが、契約の多い業界でリテラシーの低さもそれを加速させる原因の1つになっています。

会社に所属していれば契約関連は会社がやってくれるので、明らかに不利な内容等は会社側で精査してくれます。フリーランスになるとその辺りを含め、全て自分でやらなければなりません。不利な契約、トラブルが合っても契約を交わしてしまった以上は自己責任になります。

会社に所属しても派遣元の会社と自分の間では雇用契約が結ばれますので、ここは自分で不利な内容にならないよう自衛する必要があります。

また、契約体型によって金額が変わる(特に派遣契約は指揮命令系統が客先なので管理工数分安くなる)みたいな記事を見たことがありますが、正直関係ないと思います。

派遣だから安いことも無いですし、準委任だと高いなんてことはありません。
結局は営業の力であったり、商流(元請けなのか、二次、三次請けなのか)だけの話だと思います。

(弊社の場合全て派遣契約で、半分以上は20代ですが平均契約金は80万付近です)

少し長くなりましたが、これら契約や法律関連を知っているだけで良い会社を選べる可能性は格段に上がります。

少しややこしいことも多いですが、一般常識としてこれが広まらないとひどい中抜きを行うSESのブラック企業は無くならないと思います。